ご本人からの質問


そもそも、遺言書は書かないといけないのでしょうか?
自分が書かないといけないのか、分かりません。
家族がいらっしゃる方であれば遺言書を書いておくほうがよいでしょう。
法律上、遺言書作成は義務ではありません。しかし「ご自身が書くべきかどうか」を判断するために、遺言書が持つ役割をご理解いただくことをお勧めします。
遺言書は、「書くべきもの」というよりも、「ご家族に残す最後のメッセージ」であり、「残されたご家族の負担を減らすための準備」だとお考えいただきたいのです。
- 争いを防ぐ役割:遺産分割方法について具体的な指示を残すことで、残されたご家族が「誰が何を相続するか」で揉めることを未然に防ぎます。
- 手続きを簡略化する役割:遺言書があれば、原則として相続人全員による遺産分割協議を経ることなく、不動産の名義変更や預貯金の解約手続きがスムーズに進められます。
「自分が書くべきかわからない」と感じたら、まずはご自身の財産状況やご家族の関係を整理してみましょう。その上で、遺言書を作成することで得られるメリットと、作成しなかった場合のデメリットを比較検討することが大切です。

弊所では、お客様のご状況を詳しくお伺いし、「本当に遺言書が必要か」「どのような内容が良いか」について、今までご相談を受けた経験上からと、中立的な立場からアドバイスを提供しております。お気軽にご相談ください。


遺言書を書きたいのですが、様式や用紙はどんなものでも構わないのでしょうか?
何か決まりがあるのでしょうか?
民法で定められたルールを守れば大丈夫。
法的に効力のある遺言にするためには、民法に規定された様式で書かれた遺言でないといけません(民法960条)。有効な遺言とするためには、一応のルールが決められているわけです。
そのルールについてですが、一般的に利用される遺言書には大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがあります。2つの遺言書のルールやメリット・デメリットについては、「遺言で失敗しないための大切な3つのポイント」と題した動画の中で、解説しています。こちらのフォームからお問合せいただくと、視聴用のURL(Youtube)をお送りさせて頂いておりますので、是非ご覧ください。
ちなみに、用紙についてのルールは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」で異なります。下の表を参考になさってください。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|
| 指定はありません。便箋、コピー用紙、ルーズリーフ、和紙など、どのような紙でも法的には有効です。 | 種類 | 公証役場が用意する専用の用紙(公文書用紙)が使用されます。遺言者様がご持参いただく必要はありません。 |
| 白紙でなくても、色付きの紙でも構いません。 | 色 | 公文書としての規則に基づいた色が使われます。 |
| サイズの指定もありませんが、A4サイズをお勧めします。これは、公的な書類として取り扱いやすく、保管しやすいためです。 | サイズ | 公文書に適したサイズ(一般的にはA4など)で作成されます。 |
| 鉛筆など消えやすい筆記用具や、感熱紙(レシートなどに使われる熱で色が変わる紙)は、経年劣化により文字が読めなくなる可能性があるため、避けてください。 | 保管の観点 | 原本は公証役場に厳重に保管されます。この原本は原則として永年にわたって保管されるため、文字が消えたり、紛失したりする心配は基本的にありません。 |
| 用紙以上に、「全文自筆」「日付の記載」「署名・押印」という形式上のルールが最も重要です。用紙に気を取られ、このルールを破ると無効になるためご注意ください。 | 注意点 | 用紙に関する注意点は特にありませんが、作成当日は実印、印鑑証明書、証人2名、公証人手数料など、公証役場が指定した必要書類や費用を忘れないことが重要です。 |


とりあえず、元気なうちに一度書いておこうと思うのですが、一度書いた遺言は後から修正は可能なのでしょうか?
何度でも書き直すことができます。
遺言書は、法律上、遺言者(作成した方)が生前である限り、いつでも、何度でも、その全部または一部を撤回・変更することが認められています。「とりあえず元気なうちに書いておこう」というお考えは、非常に大切なことです。ご自身の意思を明確にしておくことは、ご家族の安心に繋がります。その後の状況の変化(ご家族の増減、財産の変動、お気持ちの変化など)に応じて、以下の方法でいつでも遺言の内容を修正・変更していただけます。
❶ 新しい遺言書を作成する
- 最も一般的な方法です。新しい遺言書を作成し、その内容が以前の遺言書と矛盾する部分があれば、新しい遺言が優先され、以前の遺言はその部分について撤回されたものとみなされます。
- 以前の遺言書の効力を完全に無くしたい場合は、新しい遺言書に「以前作成した遺言をすべて撤回する」旨を明記すれば確実です。
❷ 遺言書を破棄する
- 遺言者ご自身が、作成した遺言書を故意に破棄することによっても、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされます。

弊所では、お客様のご状況を詳しくお伺いし、「本当に遺言書が必要か」「どのような内容が良いか」について、今までのご相談を受けた実績からと、中立的な立場からアドバイスを提供しております。お気軽にご相談ください。


資産に関してだけでなく、葬儀の方法なども指定したいです。
遺言書にはどこまで書いてよいのでしょうか?
基本的にどんな内容でも書くことができますが…
遺言書は、民法に定められた一定の方式に従っていれば、基本的にどんな内容でも書くことができます(民法960条)。ただし、強制力などの法律上の効果を持つものは財産の分け方に関することや認知など身分に関することなどに限られます。
葬儀方法の指定はこのような法律上の効果はありませんが、記載することで遺言書自体が無効になってしまうようなことはありません。他にも埋葬場所や遺言者の思いなどを書くこともできます。
これらの事項は、遺言書に記載することで法的拘束力が発生し、ご逝去後に必ず実現されます。
- 特定の相続人に特定の財産を相続させる(遺産分割方法の指定)
- 法定相続人ではない人に財産を遺贈する
- 子どもの認知(非嫡出子の場合)
- 未成年後見人の指定
- 遺言執行者の指定(手続きをスムーズに進める人を決めること)
法律事項以外の、ご家族への想いや希望などは、「付言(ふげん)」として記載します。これらは法的な拘束力はありませんが、残されたご家族が遺産分割で揉めないための大切なメッセージとして非常に重要な役割を果たします。
| 記載できる主な内容 | 役割 |
|---|---|
| 葬儀の方法、埋葬の希望 | 家族に対する希望を伝え、判断の負担を軽減します。 |
| 生前の感謝の気持ち | なぜその財産配分にしたのかの理由を伝え、家族の納得感を高めます。 |
| 特定の相続人への配慮 | 家族が揉めないように「争わないでほしい」という願いを伝えます。 |
| ペットの今後について | 飼育を託したい人への希望を伝えます。 |
遺言書に葬儀に関する希望を記載することはできますが、遺言書は通常、ご逝去から時間が経って開封されるため、葬儀に関する希望は別の形で伝えておく(例:エンディングノート、別紙メモなど)こともお勧めします。
ご家族からの質問


父親が認知症の診断を受けています。しかし、症状は軽度で日常の意思疎通で少し困る程度です。
この場合でも、遺言を書いてもらうことは可能でしょうか?
遺言書を作成できる可能性は十分にあります。
軽度の認知症の診断を受けている場合でも、遺言書を作成できる可能性は十分にあります。ただし、遺言の有効性が問われないように、細心の注意を払う必要があります。
遺言書が有効であるためには、作成時に遺言者に「遺言能力(いごんのうりょく)」が備わっていることが必要とされます(民法963条)。
「遺言能力」とは、ご自身の財産状況や、その財産を誰に、どのように遺したいかという意思を正確に理解し、判断できる能力のことです。軽度の認知症であっても、この遺言能力があると判断されれば、遺言書は有効となります。
認知症の診断を受けている方の場合、後日「遺言能力がなかった」と争われるリスクを避けるため、当事務所では「公正証書遺言」の作成を強くお勧めしています。公正証書遺言は、以下の理由から遺言能力の証拠となり、有効性が担保されやすいです。
| 公証人が判断する | 公証人が直接ご本人と面談し、遺言の意思能力があるかどうかを厳しくチェックした上で作成します。 |
| 医師の診断書を添付 | 遺言能力を証明するための医師による診断書を公証役場に提出することで、より確実性が高まります。 |
| 専門家(証人)が立ち会う | 公証人と証人2名が立ち会うことで、作成時の状況が明確に記録されます。 |

認知症でも症状の軽重によって違いがあり、遺言能力の有無の見極めは非常に難しいものがあります。認知症に限らず、遺言をしようとする人に判断能力の疑いがある場合は、お早めに私たち法律の専門家にご相談いただくことをおすすめします。
軽度なうちにできるだけ早くご相談いただくことが、ご本人様の意思を尊重し、ご家族の安心を守る最善策となります。まずは一度、現在の状況をお聞かせください。


施設に入居した父親の荷物を整理していたら、遺言書を発見してしまいました。
中身が気になります。開けて見ても構わないでしょうか?
勝手に開けてしまうと、法律違反になる可能性があるため、絶対に避けてください。
遺言書が封印されている場合には、絶対に開封してはいけません。なぜなら、封がされている遺言書は家庭裁判所で開封する手続きを取らなければ、過料という罰金が課せられる事があるからです。
ただ実際には、遺言書の封がされていなかったり、検認手続きのことを知らずに開封してしまうという場合もあります。その場合でも、家庭裁判所での手続きを行う必要があります。なので、遺言書を発見したら私たち法律の専門家にご相談ください。
遺言書を開封する前に、それがどの方式で作成されたものかの確認が必要です。
遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、特に封印されている自筆証書遺言の取り扱いは厳しく定められています。
| 封印された自筆証書遺言の場合 | 勝手に開けてはいけません 遺言書が封筒などに入っていて封がされている場合は、家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを経る前に、絶対に開けてはいけません。 |
| 封印されていない自筆証書遺言の場合 | 検認は必要です 封印されていない(または封筒に入っていない)自筆証書遺言は、開封しても過料の対象にはなりませんが、検認手続き自体は必要です。 |
| 公正証書遺言の場合 | すぐに開封・利用できます 遺言書が公証役場で作成された公正証書遺言であれば、原本は公証役場に保管されており、ご家族が持っているのは「正本」または「謄本」です。公正証書遺言は検認手続きは一切不要です。すぐに開封し、その内容に基づいて相続手続きを進めることができます。 |

遺言書を発見したら、まずは開封せずに、それが公正証書遺言かどうかを確認してください。自筆証書遺言のように見える場合は、封が開いていても閉まっていても、念のため開封はせず弊所へご相談ください。検認手続きが必要かどうか迅速に判断し、その後の手続きをサポートいたします。


父親が「死んだ時の話なんて、縁起でもない!」と言って、遺言書の作成に前向きではありません。
遺言書が無いと、何か問題がありますか?
残されたご家族にとって大きな「問題」や「負担」となる可能性があります。
遺言書がないことは、法律上問題があるわけではありませんが、残されたご家族にとって大きな「問題」や「負担」となる可能性があります。お父様のお気持ちは理解できますが、遺言書は「縁起でもない話」ではなく、「残されたご家族の平穏な未来を守るための準備」だとお伝えください。
遺言書がない場合に、ご家族が直面する具体的な問題は以下の通りです。
全員の合意が必要
遺言書がない場合、預貯金や不動産を含むすべての財産について、相続人全員の同意が必要な「遺産分割協議」を行わなければなりません。
手間と時間
相続人のうち一人でも遠方に住んでいたり、連絡が取れなかったりすると、話し合いや書類のやり取りが長期化し、手続きに数ヶ月から数年かかることも珍しくありません。
分配方法で対立
特に不動産や特定の事業用資産など、分けにくい財産がある場合、「誰が何を相続するか」で意見が対立しやすく、ご家族の関係に深刻な亀裂が入る原因となります。
法定相続分通りにならない
法定相続分はあくまで目安であり、話し合いがまとまらなければ、結果的に裁判所に持ち込まれることになり、時間と費用がかかります。
預貯金の解約
遺言書がないと、銀行などの金融機関は相続人全員の印鑑証明書などの書類が揃うまで、預貯金の引き出しや解約に応じてくれません。生活費や葬儀費用の支払いが困難になる場合があります。
不動産の名義変更
自宅や土地の名義変更(相続登記)も、遺産分割協議書なしには完了できません。

遺言書は「残された家族への配慮」です。
遺言書は、お父様の「最後の意思表示」として、上記のすべての問題を解決する力を持っています。
「誰に何を」を明確にすることで、ご家族は話し合いの手間なく、スムーズに相続手続きを完了できます。
特に付言事項(ご家族へのメッセージ)として「仲良く暮らしてほしい」という想いを伝えることは、ご家族の気持ちを一つにする大きな力となります。
「元気なうちに作成するからこそ意味がある」ことをぜひお父様にお伝えいただき、もし作成の意向が少しでもあれば、弊所にご相談ください。